囚われの令嬢と仮面の男
「ええ。ちょっとやらなければいけないことがあるから!」

 立ち止まることなく返事をすると、弟の慌てた足音がすぐさま追いかけてくる。

「待ってください、姉さん! やらなければいけないことってなんですか??」

「あなたには関係のないことよ、アレックス」

「いや、そういうわけにはいきません。侍女を遠ざける手伝いをしたわけですから」

 私と並んで歩く弟に横目を向けると、彼の侍従、ヴァージルも黙って後ろから付いて来る。

 大広間や応接室が並ぶ一階(グランドフロア)を突っ切り、地下へと続く階段の前で一度足を止めた。

「そうね。私ひとりで大丈夫と言いたいところだけど、そういうわけにもいかないわよね。付いて来てもいいけど、邪魔だけはしないでちょうだい」

 アレックスは怪訝に眉を寄せながらも、曖昧に傾げた首でこくりと頷いた。

 普段は使用人が行き来する地下階段を降り、厨房や洗濯室の前を通ってさらに奥へと進む。みちみちで何人かの使用人とすれ違う。彼らは一様に驚き、わきへ避けると小さく頭を下げていた。
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