囚われの令嬢と仮面の男
 途中でアレックスの慌てた声を背後に聞いた。構わずに二階(ファーストフロア)を突っ切り、これまでに何度も来ている書斎にたどり着いた。お父様のプライベートルームだ。ハァ、と息が切れた。

「姉さんっ、いったいなにをする気ですか!」

 アレックスに肩を掴まれて振り返る。彼は少しも息を乱さず、眉を吊り上げて私を見ていた。少し遅れて彼の侍従が追いついた。

「お父様の書斎から銃を持ち出すのよ」

「はぁ!?」

 わけがわからないと言いだけに、アレックスは露骨に顔をしかめた。

「銃があれば見張り番も脅せるし、あの南京錠も壊せるでしょう?」

「そんなの正気じゃないよ、大体そこまでして犯人を逃がしてなんの意味があるんだよ!」

「彼が死んでしまうからよ!」

 アレックスを黙らせるように声を張り上げると、彼の目から私を止めようとする意欲が消えた。

「でも。そいつは姉さんを攫って閉じ込めていたんですよね? お父様が怒ってそうするのも……無理ないんじゃ……?」

「彼は野蛮な誘拐犯なんかじゃないわ。お父様もみんなも、彼を誤解してるのよ」
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