囚われの令嬢と仮面の男
 書斎の取っ手を引くと、予想通り鍵が掛かっていた。私は側に飾られた絵画の裏を手探りで探した。

 ハァ、と弟の大仰なため息が、いくらか空気を重くする。

「みんなが言う通り、やっぱり姉さんは病気だよ。犯人に洗脳されてるんだ」

 両手で頭を抱えたままアレックスがその場にしゃがみ込んだ。侍従が心配し、「部屋へ戻られますか?」と声を掛けている。

「私を病気にしたいならそれでも構わない。けれど私は。だれが何と言っても、エイブラムを助け出すから」

 思った通り、手に真鍮の鍵を掴み、扉の鍵穴に差した。普段からお父様が鍵をなくさないようにと、絵画の裏へ隠すのを知っていた。

 解錠して扉を開けると、アレックスが顔を上げた。どこか緊張した面持ちで部屋の様子を窺っている。

 弟や妹はこの書斎に入ったことがないので、好奇心がうずくのだろう。

「面倒なことに巻き込んでごめんなさい、アレックス。私は私の責任でやり遂げるから……あなたはもう部屋へ戻っていいわよ」

 書斎に入り扉を閉めようとすると、弟の手がガッとその縁を掴んだ。書斎に足を踏み入れる弟を侍従がおろおろと見守っている。
< 112 / 165 >

この作品をシェア

pagetop