囚われの令嬢と仮面の男
「こうなったら、巻き込まれついでに僕も手伝いますよ」

「……え」

 どうして、の言葉が続かない。

「普段から慎重で臆病な姉さんがここまでするなんて……。危なっかしくて見ていられないよ」

「……アレックス」

「とは言え、クリス姉さんに見つかったらなにを言われるかわかりませんよ。お父様に告げ口されるかもしれない」

「構わないわ。彼を助けるためだもの」

 アレックスが呆れた調子でまた嘆息し、「重症だな」と言って首の後ろをかいた。

 結局、アレックスの意向で侍従の彼だけが部屋に帰されることとなった。

 カーテンが締め切られた書斎は薄暗く、主人のいない静寂を守っているようだった。

 扉がちゃんと閉ざされているのを確認し、私は真っ先に書斎デスクへ近づいた。アレックスはソファーセットの下や本棚を念入りに探している。

 両サイドに引き出しの付いた書斎デスクは重厚感があり、無断で触れるのに僅かな抵抗を感じた。

 ごめんなさい、お父様。

 心でそっと詫びて引き出しの取っ手に指を掛ける。引き出しは全部で八つあった。しゃがんで膝をつき、ドレスの裾が床を擦った。
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