囚われの令嬢と仮面の男
 右上から開けて中を確認する。書類や羽根ペン、インクなどの筆記具を見て次の引き出しを開ける。引き出しの中身には手を触れず、見るだけにとどめた。

 もしも銃が出てきたら、その雰囲気と形で分かるからだ。

 七つ開けて見つからず、左端の一番下に手を掛けた。ガッ、と硬いものが邪魔をし、指先に金属の抵抗を感じた。鍵が掛かっている。

「アレックス、ここかもしれない」

 意識的に声をひそめて立ち上がる。しかしながら弟には聞こえていない様子だ。

 アレックスはいつの間にか動きを止め、キャビネットの上に飾られた肖像画を一心不乱に見つめていた。

「この女性って、もしかして……?」

「私のママよ」

 弟の瞳がぎこちなくこちらを見つめた。

「どんな人だったんですか?」

 不安そうに眉を寄せ、なにか心配事があるような顔つきだ。

「はっきりと覚えているわけじゃないけど。控えめで優しい人だったわ」

 まだ私が幼い子供でいた遠い過去を振り返る。あれは前庭の花々をちらちらと舞う、白や黄色の蝶々を追っていたころの記憶だ。

 楽しそうにはしゃぐ私を、ママが優しく見守ってくれている。
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