囚われの令嬢と仮面の男
「まさか……薔薇はなにかの口実だったわけではございませんよね?」

 懐疑的な物言いを聞き、ギクリとなった。心がどよめいたのを誤魔化すように首を振って否定した。

「っそ、そんなわけないじゃない。早急に対処してもらえて嬉しいわ。ありがとう」

 心にもない感謝を述べると、侍女たちはその身に安堵を表した。

 隣りに立つアレックスが"どうするの"と目で訴えてくる。弟の腕に手を添えて、何事もなかったかのようにその場でくるりと踵を返した。離れた侍女たちに聞こえないよう、囁き声でひと息に告げた。

「ヴァージルが用意したシャベルは部屋に置いておいて。今夜、取りに行くから」

 皆が寝静まったあとに花壇を掘るわ、と目だけで意思を伝えると、アレックスは硬い表情でコクリと頷いた。

「アレックス様とどこかへ行かれるところでしたか? だったら私たちも同行いたします」

「いいえ、必要ないわ。もう部屋へ戻るところだから」

「左様でございますか」

 裏庭へ現れるはずの侍従を迎えるため、アレックスが玄関(エントランス)に向かって歩き出す。

「じゃあ、またね。姉さん」

「ええ、ありがとう。アレックス」
< 128 / 165 >

この作品をシェア

pagetop