囚われの令嬢と仮面の男
 私たちは互いに背を向けて反対方向へ歩き出す。侍女たちはなにも言わず、私に付いて来た。

 胃の奥が重く、キリキリと痛んだ。エイブラムをあの貯蔵庫から出すことも、銃を手に入れることも、花壇を掘ることも、なにひとつ叶わなかった。目的を果たせなかった自分に歯痒さが募った。

 こうしている間にも刻一刻とエイブラムの命が削られているかもしれないのに、容易く行動に移せない。

 けれどここで無茶をすれば、監視はもっと厳しくなる。そうなると結果的に彼を救えない。

 ごめんなさい、エイブラム。あなたがしようとしていたことをやり遂げたら、必ず助けるから……!

 沈痛な思いをひた隠しに、侍女たちには毅然とした態度で接した。

 *

 午後を過ぎたころ、百本の薔薇が届いた。本をながめながら大人しくする私のそばにひとりの侍女が残り、もうひとりが行商人の対応に当たった。

 三時になると、約束どおりクリティーナが部屋へ訪れた。天気も良いことだし、外でお茶をしようかという流れになり、私と妹の侍女たちが準備をしてくれる。

 どうせなら私の花壇を見に行きたいとお願いすると、侍女たちが顔を曇らせた。
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