囚われの令嬢と仮面の男
 以前、一度考えた自分の浅ましさを思い出し、聞くのがじゃっかん怖くなる。しかしながら、妹の話は予想に反して全く別の内容だった。

「今の彼と婚約する前にね、他に好きな人がいたんだけど……。想いを伝えたら、断られちゃって。その彼ね……私じゃなくて。美人な姉様が好きだったみたい」

「……」

「ああ、だからと言って彼のことはもう吹っ切れてるから、姉様が気にする必要はないのよ? ただ、彼ってとても良い人なの」

「……そう」

「スタンリー侯爵のご長男で、ドーセットさんって方なんだけど。優しくて紳士的で、お勧めよ」

 スタンリー侯爵のドーセットさん……。名前を聞いてもピンと来ず、私は曖昧に首を傾げた。

「今度舞踏会でお会いしたらぜひ話してみて? きっと姉様も気にいると思うから」

「……ありがとう、クリス。でも私は、」

「彼なら姉様の目を覚ましてくれるわ。高潔な方だから、さすがに"あの"お父様もお認めになってくれるだろうし」

 矢継ぎ早に言われ、少しだけ怯んだ。言おうか言うまいか逡巡し、やはり素直な気持ちを告げることにした。
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