囚われの令嬢と仮面の男
「ごめんなさいね、クリス。それが本当ならとても光栄なことだし、あなたからの気持ちも嬉しいんだけど……私には別に好きな人がいるの。だからその人とはお会いできないわ」

「……そう。残念ね」

 言いながら眉を下げ、クリスティーナは手元に視線を落とした。カップに指を掛けて持ち上げ、口を付けている。

「それより。今のあなたの話で少し気になったんだけど、お父様が認めてくれるって、いったいなんの話?」

 え、と頓狂な声を出したかと思うと、妹が目を見張り、ぎこちなく視線をあちこちに泳がせた。

「あぁ〜……。実はお母様から口止めされていたんだけど。姉様のお相手はお父様が認めた相手じゃないと絶対に駄目なんだって」

「……。それって」

「姉様には出て行って欲しくないのよ。ほら、姉様は……特別、大事にされてるでしょう?」

 クリスティーナは気まずそうに紅茶を口にし、それ以上はなにも言わずにいたが。その瞳には明らかな同情が滲み出ていた。

 自由にさせてもらえないなんて可哀想、妹の放つ雰囲気からそんな心情を感じ取った。
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