囚われの令嬢と仮面の男
 さっきから軽く瞼を閉じて、寝たふりを続けている。わざとらしくならないよう、少しだけ寝息も立てた。

「お嬢様は?」

 部屋の扉が静かに閉まり、今しがた席を外していたメアリーが戻る。

「寝たわ、ぐっすりよ」

「そう。あのお薬が効いたみたいね、良かった」

 ふたりの囁き声に耳を澄ましながら、ひそかに安堵していた。やはりあの薬を飲まなくて良かった、と。

 狸寝入りを続けながら、先ほどあったダイニングルームでの時間を思い出していた。

 お父様がレスター侯爵の屋敷から持ち帰った薬を、侍女の手から渡された。白いサラサラとした粉が薄い紙に包まれていた。

 お父様曰く、ショックを受けたあとの後遺症を和らげる効果があり、今の催眠状態から解放されるのだそう。

 誘拐の後遺症による催眠を解くだなんて……いったいどんな成分で調合されているのかはわからないけれど、眠気の出る薬だと都合が悪い。

 私は食事を進めながらどうにか飲まなくていい方法を考えていた。

「さぁ、お嬢様。こちらのお水でお薬を」
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