囚われの令嬢と仮面の男
 室内(なか)から解錠できる扉を音に配慮しながら開けると、夜気のさらりとした風が頬に当たった。

 私専用に作られた花壇の前に立ったところで、アレックスが持っていたシャベルを地面に置いた。

「すみません、姉さん。掘るのを手伝いたいんですけど、少し思うところがあって……花壇(ここ)は姉さんに任せてもいいですか?」

「……え。ええ、構わないけど。アレックスはどこに……?」

「お父様の書斎です」

 え、と私は小さく息を飲み、目を見張った。

「もう寝室でお休みになっているだろうし、書斎に銃が仕舞われていないかどうか見てきます。もし無ければすぐに裏庭(ここ)へ戻って来ますし、あれば地下貯蔵庫へ向かいます」

「アレックス、ひとりで……?」

 弟は眉根を寄せて真剣な目つきで顎を引いた。

「屋敷内はひとりで動いた方が気配を消しやすいし。閉じ込められたエイブラムさんって人……そろそろ限界かもしれませんから」

 限界と聞き、胸がぎゅう、と苦しくなった。喉奥からなにか込み上げるものを感じた。それを押しとどめるため、奥歯を噛み締め、唇を結んだ。

「っ、そうね。わかったわ」
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