囚われの令嬢と仮面の男
お願いね、とささやき声で伝え、通用口へ戻る弟を見送った。その場で天を仰ぎ、ギュッと目を瞑る。
神様、お願いします。
アレックスもエイブラムも、どうか無事でいられますように……!
両手を組んだままでしばし祈りを捧げた。
目を開けても視界は暗かった。闇夜を照らす月の光は厚い雲に遮られている。今夜は星もほとんど見えない。
アレックスと二手に分かれたことで、不安は計り知れないほどに膨らんでいたが。私が今やるべきことは、誰にも気付かれずに土を掘ることだ。
足元へ置かれたシャベルの、赤い持ち手に目を据え、「よし」と自身に喝を入れた。持っていたランタンと入れ替わりに持ち手を握りしめた。
重厚な鉄と丈夫な木の柄を組み合わせたそれは、ずしりと重く、持ち上げると小さな呻き声がもれた。もちろん、初めて使う道具だ。
侍女たちが言ったように、花壇の花はすっかり枯れて朽ち果てていた。萎れた花や茎の間に尖ったシャベルを突き刺し、黒い土ごと花を取り除いた。
花壇は私の背丈ふたつ分の広さがあり、どこを掘るべきか特定できない。なので、時間が許す限り掘り起こそうと考えていた。
サク、と土にスコップ部分を差し込み、両手で木の柄を持ち上げる。ばらばらとこぼれる土で着ていたローブも靴も泥まみれになった。
神様、お願いします。
アレックスもエイブラムも、どうか無事でいられますように……!
両手を組んだままでしばし祈りを捧げた。
目を開けても視界は暗かった。闇夜を照らす月の光は厚い雲に遮られている。今夜は星もほとんど見えない。
アレックスと二手に分かれたことで、不安は計り知れないほどに膨らんでいたが。私が今やるべきことは、誰にも気付かれずに土を掘ることだ。
足元へ置かれたシャベルの、赤い持ち手に目を据え、「よし」と自身に喝を入れた。持っていたランタンと入れ替わりに持ち手を握りしめた。
重厚な鉄と丈夫な木の柄を組み合わせたそれは、ずしりと重く、持ち上げると小さな呻き声がもれた。もちろん、初めて使う道具だ。
侍女たちが言ったように、花壇の花はすっかり枯れて朽ち果てていた。萎れた花や茎の間に尖ったシャベルを突き刺し、黒い土ごと花を取り除いた。
花壇は私の背丈ふたつ分の広さがあり、どこを掘るべきか特定できない。なので、時間が許す限り掘り起こそうと考えていた。
サク、と土にスコップ部分を差し込み、両手で木の柄を持ち上げる。ばらばらとこぼれる土で着ていたローブも靴も泥まみれになった。