囚われの令嬢と仮面の男
 ボロ切れのような存在がランタンの灯りで照らされる。黒く変色していたが、洋服だとわかる。女性もののデイドレスの、ちょうど肩の部分だ。

「……っあ」

 喉が震えた。体勢を低くしたまま、手を使って周辺の土を取り除いた。鼓動がひとりでに速くなる。

 いつの間にか雲が切れ、月明かりが頭上から降り注いでいた。

「……これってまさか。人の骨?」

 白く細いものがそれであるかのように並び、私は首と思われる部分より上にかかった土を手で掻き出した。予想していた通りの形が土の中から現れ、絶句したままぺたんと座り込んでいた。

 頭蓋骨だった。ぽっかりと空いたふたつの穴を見つめ、ここにあの優しい眼があったのだろうと想像した。

 花壇の下に埋められていたものは、私が思ったとおり人の骨だった。恐らくは十六年前に失踪したと言われている、ママの遺骨だ。

「……ママ」

 途端に悲しみの波が押し寄せた。

 私はママにも愛されず、この屋敷へ置いて行かれたのだとずっと思い込んでいた。

 でも、ママはここにいたんだ。お父様が作ってくれた私の花壇の下で眠り、いつも綺麗な花を咲かせてくれていた。
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