囚われの令嬢と仮面の男
「気づいてあげられなくて……っ、ごめんなさい、ママっ」

 ママのことをずっと誤解していた後悔や、人知れずにこんな場所に埋められたママへの憐れみが、涙となって頬を流れ落ちた。

 ママをここに埋めたのはきっとお父様だ。じゃなきゃ、書斎にあった髪束の説明がつかない。

 どうして……?

 ひっくひっく、と小刻みに続く声が(おさま)るまで私は静かに泣いた。

 泣きながらも頭の中は不思議と冷静だった。

 お父様がママを殺して埋めた動機はわからないけれど、ひとつだけはっきりしたことがあった。

 あの時。たった九歳だった(イブ)は口封じのために狙われたんだ。イブは見たのだろう、お父様の犯行を。あの切られた生垣の向こう側から。

 そしてお父様も、彼に見られていたことに気づいていた。そう考えると辻褄が合う。

 のちに私の花壇となる場所に、だれかの遺体が埋まっているのを知っていて、イブはあの日、通路となった生垣から裏庭に入り込んだ。ママが埋められる前に外れてしまったアメジストのブローチを拾って、放心していたに違いない。

 涙が引くのを待ち、両手で顔を拭う。頬に泥が付いたかもしれないけれど、それに構っている余裕はない。

 アレックスが戻って来たら、この事実をちゃんと伝えよう。
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