囚われの令嬢と仮面の男
「お父様のデスクにある左下の引き出し。あの中に仕舞われた髪は、ママのものなんでしょう?」

 お父様がいくらか俯けていた顔を上げる。正面から目が合い、少しだけ肩が震えた。

「そうだ。あの髪はローラのものだ。あいつが私の元から逃げようとしていたから……切ってやったんだ」

「なんのために……?」

「遺髪に決まってるじゃないか」

 言いながら唇の端を持ち上げて、寂しげに笑った。哀愁を帯びたその笑顔がひどく恐ろしかった。

「やっぱり。ママを殺したのね……?」

「そうじゃない。あれは不運な事故だったんだ」

 お父様は、土の中から現れた頭蓋骨を見つめ、滔々(とうとう)と語り始めた。

 結婚した当時からママは美しく、だれも彼もに愛想を振りまいて接していたらしい。そしてだれもが彼女の美貌の虜だった。

 ママは平民育ちで貴族としての振る舞いには欠けていたが、なにより人の心を掴むのが上手かったという。

 そんなママを愛していたのは確かだったが、お父様は、このままではだれかに妻を奪われるかもしれないという強い不安に駆られたそうだ。極力ママを外へ出さず、家の敷地内だけで生活するよう強要した。
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