囚われの令嬢と仮面の男
「あのころは良かったなぁ。ローラがまだ家にいて、マリーンも楽しそうに笑ってた。どこでどう間違えたのか……私にはわからんよ」

「あの。ママの行方はわからないんでしょう?」

「あぁ。一体どこへ行ったのか。もう見つからんよ、もう……。十六年も経ってしまった」

 お父様は悲しげに眉を下げ、ママの絵を見つめた。そうして何かに気付いた素振りで目を見張り、私の襟元に視線を据えた。

「そのブローチ。昔、ローラがつけていたやつだな。マリーンが大切に使っていてくれたのか……ありがとう」

「ううん」

 ママの思い出の品として、紫水晶の目立つブローチを毎日身につけている。日に翳すと美しく光る宝石、アメジストだ。

 お父様の視線に倣い、絵画のママを見つめた。

 ママの絵画にもそのブローチが詳細に描かれている。

 遠い記憶になるけれど、ママはいつもこのブローチを身につけて笑っていた。

 栗色に輝くママの髪が肩に掛かり、緩やかに波打っている。

 お父様はママのこの艶やかな長い髪が好きだと言っていた。そのせいかもしれない。同じように私にも髪を伸ばして欲しいと思っている。

「綺麗な栗色の髪はママ譲りだから大切にしなさい」、子供のころにそう言われたのだ。
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