囚われの令嬢と仮面の男
「だけど私、もう二十二なのよ。クリスにはいい男性(ひと)がいるのに、姉の私がまだだなんて。お母様だって恥ずかしいと思ってるに決まってる」

「おまえはそんなことを気にせずに、いつまでも家にいてくれればいいんだよ。父さんのそばにいてくれることが何よりの親孝行なんだから」

「……そうね、お父様」

 お父様の言葉は素直に嬉しい。できた娘なら家のために良家へ嫁ぐのが当たり前なのに、それを強要しない。

 大切にされているからこそ、ありがたくもあり、申し訳なくもある。

「……この絵」

「気づいたかい? まだおまえが小さいころのものだけど、ローラと三人で描いてもらったものだよ」

 アンティーク調のキャビネットの上に、数枚の絵画が飾ってあった。

 お父様と私の実母であるママの自画像、開放感のある風景画。

 どれも立派な額縁に入れられた絵画だ。

 そのうちの一枚の光景を今も覚えていた。私が六歳になって間もないころ、家族三人が揃った絵を画家の方に描いてもらった。

 絵から視線を飛ばし、壁を埋め尽くす本棚を眺めた。そのほかには書斎デスクがあり、ゆったりと寛げるビロード張りの椅子とソファーセットが置いてある。

 お父様の書斎は子供のころから変わらない、どこか懐かしい香りが立ち込めている。
< 14 / 165 >

この作品をシェア

pagetop