囚われの令嬢と仮面の男
 解錠される音が鳴り、私は咄嗟に駆け出した。

 そのままの勢いで、男の背中めがけて肩で体当たりをした。途端に足がふらついた。男は扉に置いた手で体を支え、微動だにしなかった。

 代わりに私の上体がぐらりと傾いた。男の手が私の腕を掴み、転びそうになるのをすんででまぬがれる。

「何のつもりだ!?」

 男は当然怒るが、あとには引けないと思った。

「離してっ、今すぐ家へ帰るんだから!」

 両手で男を押しのけて、扉から出てやろうともがく。やはりと言うべきか、私の力は難なく抑え込まれた。

 そばの壁に両手を押しつけられたまま、男が低い声で言った。

「屋敷へは帰れない、と言ったよな?」

 脅しで足がすくみそうになるが、全力で反発する。私は仮面に空いた男の目をキッと睨みあげた。

「家にも帰れずこのままここで暮らすなんて冗談じゃないわ! そんな横暴を受け入れるほど、私は馬鹿じゃない! あなたが何を揃えてくれても、こんなところじゃ寛げない! ここは私の居場所じゃないんだからっ!」

 壁に押し付けられたままで言いたいことを言い切り、肩で息をしていた。男は目を細めた。
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