囚われの令嬢と仮面の男
 男は振り返ったが、なにも言わずに鍵を開けて出て行った。外側から施錠される音がした。

「なんで私、あんなこと」

 私を無理やり屋敷から連れ出した張本人に、悩みを打ち明けるなんてどうかしている。馬鹿だ。馬鹿にもほどがある。

 椅子から立ち上がり、ふと浴室に目を向けた。

 試しに右腕や自分の長い髪を鼻に寄せてにおいを嗅いでみる。

 特別、汗くささは感じなかったけれど、やはり体は洗いたい。

 あと数分待って男が戻って来なかったら、入浴しよう。

 そう思い、何気なく出入口の扉を見つめた。先ほど立ち去った男の後ろ姿を思い出し、頭の中にある考えが浮かんだ。

 どうして思いつかなかったのかしら……。

 テーブルのそばにある戸棚をあけて、中を確認する。

 陶器でできた皿が二枚とグラスが二つ置いてあった。皿を手に取り、厚みなんかを確かめてみる。これは使えるかもしれない。

 明日の朝、男がやって来たら試してみよう。

 決意をかため、出入口の扉を再度一瞥してから浴室に向かった。

 ***

< 47 / 165 >

この作品をシェア

pagetop