囚われの令嬢と仮面の男
「……違う。そんなんじゃない。ただ私が、誰にも選ばれないだけ」

「選ばれない?」

 男がわずかに首を傾げた。その仕草が、意味がわからないと言っているふうに取れた。

「私に好意を寄せてくれる男性なんて、今まで一度も現れなかった。伯爵令嬢でも、妹と違って愛嬌もないし低脳だから……誰にも相手にされないのよ」

 言ってからハッとなった。顔の中心が熱くなり、「なんであなたにこんなこと」と自分勝手に文句をつける。

 自分の弱みを見せてしまったことに、少なからず動揺していた。震える唇をギュッと引き締めた。

 これ以上は何も言うまいと決めて、食事の残りを食べきった。ミルクのグラスももう空だ。

「マリーン……。キミはたぶん、色々と思い違いをしている」

「え?」

 ナフキンで口を拭いていると、男がテーブルへと近づき、私が使った食器を割れないように、そっと紙袋に仕舞っていた。持ち帰って洗うのかもしれない。

「おしゃべりが過ぎたな。明日の朝、また九時に来る」

「……ええ」

「早く寝ろよ」

 そう言って立ち去る背中に、「わかってるわよ、変態さん」と返した。
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