囚われの令嬢と仮面の男
「本当にひどい話だよねぇ。その子まだ九歳だったんだろ?」

「そうそう。どこかの領主か教会の使いが小銃を暴発させた事故だって聞いたけど……そんな子供が死んだと聞いちゃあ、やるせないよ」

 屋敷内の物陰に隠れながら、彼女たちの話に聞き耳を立てていた。心臓の音が不規則に乱れるのを感じた。

 亡くなった少年が九歳と知り、イブの顔が脳裏にチラついた。

 そうすると、もう居ても立っても居られなくなった。物陰から飛び出し、彼女たちへ走り寄った。

「その男の子、誰だったの?? 名前は!?」

「っま、マリーンお嬢様?? いつからそちらに」

「手に金魚のあざはあったの?? ねぇ、教えて、教えてよっ!?」

 戸惑う使用人たちを問い詰めて、私はそのまま気を失った。

 *

「マリーン……」

 聞き覚えのある少年の声が、立派な生垣の向こうから聞こえた気がして私は緑の壁へ寄り、必死に声を張り上げた。

「イブ!? イブなの??」

「あの少年ならもう来ないよ」

 背後からポンと肩に手を置かれて、振り返った。

「……パパ」

 涙で濡れた私の顔を見て、お父様が悲しそうに微笑んでいた。
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