囚われの令嬢と仮面の男
 先ほど聞いた名前を呼ぶ声は、どうやら幻聴だったらしい。

 お父様はかがんで膝を付き、泣きじゃくる私をそっと抱きしめて言った。

「あの少年はね。私の大切なマリーンを連れ出そうとしていたから……罰を受けたんだよ」

 罰……? いったい何の??

 すぐにはわからなかった。ただ、もう二度とイブには会えないのだということだけは理解できた。

 お父様の言葉の意味に気づいたころ。私は悪夢を見るようになった。

 頭を小銃で撃ち抜かれた少年の、無念な死に顔の夢だ。

 閉じることなく開いた目には涙が滲み、頬を伝っている。路地を赤黒く染める血に両手が浸かり、左手の甲には金魚のあざがある。

 私が遊びに抜け出したから……!

 私がお父様の言いつけを守らなかったから……!

 イブは私のせいで……………………死んだ……。


 **

「っいやぁあぁぁっ!!」

 甲高い叫び声で目が覚めた。それが自分の口から発された音だと気づき、またあの夢を見たのだと思った。

 ハッハッ、と呼吸が乱れ、額に嫌な汗が浮いている。

「マリーン、大丈夫か??」
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