囚われの令嬢と仮面の男
 すでに片付けておいた食器入りの紙袋を持ち上げると、彼は出入口へと進んだ。帰るのだと察して、慌てて声を上げる。

「ま、待ってよ! まだ聞きたいことが」

「また六時に来る。そのときに話そう」

 扉は呆気なく閉ざされた。いつものように金属の擦れる音が鳴り、彼の靴音が遠ざかる。

 即座に足から力が抜けた。

「なんなのよ……」

 再びベッドに腰を落とした。自らの重みでボスンと音がして、白いシーツにシワが入る。

 一度にたくさんのことが起こり過ぎて、軽く頭が混乱していた。

 仮面の男が、まさかのエイブラムだった。

 それも偶然出会って、いいなと思った相手で、実は彼も私のことが好きだったなんて……そんなの話がうますぎる。

 第一、私は彼自身についてなにも知らないのだ。ただ見た目の美しさに一目惚れしただけ。

 なのにあの人は私を好きだったって……そんなの信じられるはずがない。

 質問にだって満足には答えてくれなかったし、話題をすり替えられた気さえする。

 婚約者候補に申し込んだのなら、お父様やお母様からその話をされないのも変だ。

 きっと上手く言ってはぐらかしたんだわ、都合が悪いと思って。そうに決まってる。
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