囚われの令嬢と仮面の男
 エイブラムの瞳は真剣そのもので、とても出鱈目を言っているようには見えなかった。

「あの舞踏会の夜は、偶然だったんだ。本当に偶然、キミに会えた」

「なによそれ……それじゃあエイブラムさんは。以前(まえ)から私のことが好きだったってこと?」

「……そうだよ」

「嘘よ、そんなの……。だって私、取り柄もなんにもない、ただ伯爵家に生まれたっていうだけで……高慢に見られるし、頭も良くないもの」

「そんなに完璧じゃないといけないのか?」

「……え」

「キミはキミの魅力に気付いていない。欲しいと思ってる奴がたくさんいるのに、マリーンは気付かないんだ。自分を卑下して、先入観で周りの奴らを見ている」

 エイブラムの深く青い瞳に、どこか非難されている気がした。シャンとしろ、とその目が物語っていた。

 彼はスクっと立ち上がり、私とすれ違うとテーブルまで歩いた。そこに置いていた懐中時計を持ち上げ、時間を確認している。

「俺のことは別に断ってくれていい。キミを側に置いておきたいだけで、あの屋敷から攫ったわけじゃないから」
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