囚われの令嬢と仮面の男
「彼を、どうするの?」

「……マリーン。おまえが気にすることじゃない。先に屋敷の者と外に出ていなさい」

 戸口に立つお父様のわきに男が二人付き従っていた。

 ミューレン家の屋敷に勤める使用人とあとの一人は見慣れない男だ。おそらくはさっき聞いた探偵だろう。使用人は護衛目的で連れて来られたに違いない。

 今しがた瓶で殴られた男も意識を取り戻し、首の後ろを押さえたままヨロヨロと立ち上がった。

「さぁ、マリーンお嬢様。お早めにこちらへ!」

 腕を引かれそうになって、私は即座に身を引いた。

「マリーン……?」

 胸の奥がざわざわと騒いだ。彼を置いて行っちゃだめだと本能が訴えていた。今ここを離れたらきっと取り返しのつかないことになる。

 エイブラムはお父様の手によって、今度こそ確実に殺される。

「なにをしている、おまえたち。早くマリーンを連れて外へ出ろ!」

 お父様が使用人たちへそう急かしたとき、エイブラムの頭に向けられていた銃口が大きく逸れた。その機会を見逃さなかった。

 床板を蹴り、私はお父様とエイブラムの間に割って入った。彼の頭を庇うようにギュッと胸に抱きしめた。
< 94 / 165 >

この作品をシェア

pagetop