囚われの令嬢と仮面の男
「マリーン」と彼が呟いた。その声と体温に心臓の奥がきゅんと痛くなる。

「ま、マリーン? なにをしている……?」

「お願いします、お父様! 彼には危害を加えないでくださいっ」

「しかし、こやつはおまえを……っ」

「彼は私をここへ連れて来て、閉じ込めただけよ。それ以外にひどいことはなにひとつされていないわ!」

「離れるんだ、マリーンっ!」

「いやよっ! 絶対いや! 私は彼を愛しているの!」

 叫ぶように口にして、ようやく気がついた。

 幼いころ、似たような境遇に親しみを覚え、私と彼は友達になった。

 それから十六年の時を経て、また会えた喜びとときめきで涙が溢れた。

 弾けるようなエイブラムの笑みに胸が締め付けられた。

 彼と過ごした時間もこの温もりも、もう二度と失いたくない。だからだれにも奪わせない。エイブラムのことは私が守る。

 ギュッと彼を抱きしめたままで私はそこを離れなかった。お父様が私の腕を引いて立ち上がらせようとしても、いやいやと首を振り、一切応じなかった。説得も全て無視をした。

 先に折れたのはお父様だった。
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