島の家を相続した!!

鍵を渡す相手が島で出来た

スッカラカンな島の部屋。

あの遺品整理をお願いした
『何でも屋さん』が
置いていったのは
電灯と1階店舗の一部棚。
あと応接間の飾り棚だった。

引っ越しや、
片付けの際に電灯だけは、
最後まで残すべきアイテムだと
聞いたのは誰だったか?


「まずは、家具家電だな。」

何もない台所で、立ったまま。
妹と2人、缶コーヒーを手にした
春。

漁師相手に売る地元魚の弁当を
食べ終え、
わたしは妹に言った。

「なに?おねぇ。」

ちなみに弁当で驚くのは 、
米が水っぽい炊き上げな事。

島はガスがボンベだから、
火力が緩いのか?
とにかく水っぽい。
しかも清んだ水っぽい味がする。
水が良いのだ。
なのに米が緩い炊き加減。
どっち!!なツッコミ味。

が、魚や惣菜は流石美味し!!

そして風流にも、
島の庭に桜の花弁が舞う。
風花。
歌みたい。

近くに会社の別荘の茶室があり、
そこに桜があるのだ。

うちの庭から少し見えて、
ちょっと得した気分がする。

年末に亡くなった叔母。
あれから結局、4ヶ月。

叔母が亡くなって直ぐに動いても
相続センターに依頼した
保険金や、銀行のお金が
ぜーんぶ入ったのは春で、
これで漸く諸々が終わった次第。
それでも、
あっという間な気がする。

「えー、リフォームでしょ!
ここは!!『匠』にお願いしよー、テレビ局に応募しよー!」

自販機のミルクティを飲み干し、
妹が目を輝かせるんだよね。

「軍資金600万では無理だな。1000万は用意しないとダメ。
リフォーム業者に頼むと、家を
直すとこからになるだろし。」

頼めるなら頼みたいけど、
なんと言っても築50年はいってる。

ちなみに無事に遺産の保険金も
親族から遺産放棄してもらい、
島の家に使わせてもらえる。

冷静に考えるべきは『金』。
600万まるまるリフォームに
使えるわけじゃないのだ。

何より『島の家』ってだけで、
拒否される。
実際幾つか見積りを打診した。
が、撃沈。
島でも、この集落に入るのは
難しいと言われたわけで。

昔、
祖母が本土の病院で亡くなった時
葬儀屋が遺体を島に運ぶのを
嫌がった事を思えばだ。

結局、自分達でトラックに
祖母の遺体を乗せて
海を渡り運んだ。
祭壇だって、自分達で組んだ。
今の時勢から思えば、
あの経験は貴重だった。

とにかく、
今回もDIYは必須だろうと推測。

「ならお洒落なのにしよ?!◯KEYAとかでさ!
北欧ー北欧ー!!ね?おねぇー」

「まてまて、軍資金との兼ね合いもあるし、なんでも思い付きで
インテリアを買うと痛い目あう。」

「じゃあどうすんの?」

文句垂れ垂れの視線を向ける妹。
でも軍資金は600万。
インテリアやDIYに使えるのは
200万ぐらい。

「島の電気屋に行くよ。」

「ええーーー!なんで!」

まずは冷暖房!!
なんっつっても、今の今も
立ったまま
台所で作戦会議しているのだ。
夏にDIYや家具を組み立てるならば、鬼暑い間違いない!


「エアコンとか、冷蔵庫、洗濯機、そんで電灯に、レンジを買う。まずは文明の機器だわ。」

「でも電気屋なんかあんの?」

「小学校と支所があるなら、絶対あるもんなんよ。島の電気屋はね。」

そうなのだ。
離島に嫁に行った友人曰く。
嫁入り先の電気屋を辞めれないと
事情を嘆いていたのを思い出す。

なにより。

「ばあちゃんが店してた時に、
電気屋の子供が来てたはず。」

荷物を手にして、
向かいのお好み焼き屋に顔を出す。
聞けば、やっぱり電気屋は
続いていた。

教えられた道を進むと、
天下の松◯電気=パナ◯ニックの
看板!!
『貴方の町のでんきやさん』だ!

ピロリ~ン、、

電子音を鳴らせて店に入れば、
絶対、あの美容院で巻いた
パーマヘアーのマダムが出てくる。

「カタログ見せてもらえませんか?」

もちろん街の量販店みたいには
現物がある訳がない。
いや、違う。

「先生とこの姪っ子です。
島の家に家電を入れたいんです。」

まずは、叔母の姪っ子だと
自分の身分を証明する事をする。

これだけで、

「ありゃあ、先生とこの!いんやあ、大変やったよなあ。先生、ぜぇんぜぇん元気やったもんなあ。
でぇ、姪っ子ぉ~?結婚しとん?
え、いくつう?ほな、うちん息子の5つ下よって店でおうとる?」

となる。
叔母さまさまだよ、ホント。

で、マダムが店の奥から息子を
呼ぶわけよね。

「どないしたん?おう客かぁ?」

マダムと良く似た顔の息子が
出てきて、、、

あたり!!見た顔!!

「あ!!うちの駄菓子屋に来てた
よね?覚えてるわ!でんきや!」

「え、あ?あ、あ、ホンマ?」

たじろぐ電気屋三代目息子に、
指を差すと、みるみる記憶が甦る

夏休みの度に島へ連れて来られ、
祖母の駄菓子屋の店番を
させられていた小学生時代。
うるさい蝉の鳴き声の中で響く声

『おい!でんきや!』

店に来る、いかにもガキ大将に
呼ばれていた、ヒョロ高い男の子。

コイツだ!!
全然かわらない!!

て、ことはガキ大将は、
ママの美容室んとこの息子だ!!

「お姉ちゃんと何時も来てたの、
覚えてるよ。おかっぱの。」

「えぇすごいなあ。覚えてるんなぁ?まあ、ねえちゃんおるな。」

後ろにいる我が妹が引いてる。
自慢じゃないが、
なにせ人への記憶力が半端ないのだよ、わたし。

そこからしこたま、マダムも
入っての昔話。

「ほんで、家電そろえるんな?
カタログこれやが、ゆぅて2種ずつやど?選ぶんな。どないする?いつまで島におる?注文してすぐは無理やでなぁ。5日はいるな。」

「カタログに今、◯付けるわ。
そんで鍵を預けるし、家開けて
注文したヤツを設置もしといてくれへん?信用してるから。」

この台詞に我が妹の目が見開く。
まあ、街では考えられない話だ。
でも、ここは島。

家の鍵を締めたら、
鍵をそのまま渡す約束をする。

「おう、わかった。ほなら、入れておくよってなぁ。」

「ほなぁ、あんた車で送ったり。
ほれ、これも持っていきな。」

マダムにゴリ押しされて、
三代目の車に押し込められて
渡されたのは、、

「これ、、桜鯛、、」


桜の咲く時期にとれる鯛だ。

なんだか、
花弁が舞う道を電気屋の車に
鯛を持たされ乗るそれは。

「輿入れやん、、」

恐れるべし。







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