島の家を相続した!!

セットじゃない初七日法要

父は、
嘱託の身分で親族の忌休暇は
3日ぐらいしか取れないといって
早々に初七日を
菩提寺にお願いする。
まあ、
昨今の葬儀事情からいっても
初七日を骨上げした同日に
一緒にするのは
全然アリなわけで。

初七日代金30万円を
さらに包んで、
島の家から
500メーター程に位置する
菩提寺の
真言系寺にお願いした。

集落には意外に、寺や社が多い。

それは、この島における
集落の歴史によるかもしれない。
どちらにせよ、
本土から切り離された島。
いざという時に、
僧侶が足りないと
ならない手なのかもしれない。

最近流行りの家族葬とか、
小さいお葬式ってのは、
阪神の震災以降に
大幅に普及したとか。

一斉に亡くなるような時、
葬儀屋、僧侶、火葬場が
足りなくなるのは
実際、
世界的パンデミックを起こした
ウイルス禍の今でも
起きていたのだから。

とにかく、
菩提寺で
残る親族が見守る中
なんとか
初七日法要までは終わらせた。

ちなみに
葬儀に使った
故人の白木位牌から、
魂を本位牌に移してもらって
戒名を付けてもらうのに、
またまた5万包む。
どうやら、金額によって
戒名の位がちがうらしい。
でもって通常
葬儀屋の担当さんが
付いてくれるのはここまで。

ここまでが普通別セット。
会員ならサービスのところ。


ところが、
「先に金は払う。」

父は
葬儀が終わった時点で
ホールスタッフに申し出た。
が、
一旦断られた。
それもそうだ。
なにせ、まだお金が発生する
事項が残っている。

小さなお葬式で後日親族が
葬儀を街で挙げたが、
単に全ての行程の経費を
明細化して
単品売りにしているだけで、
本当に安くするには、
省くか自分達でするかに
なっていた。
結局、
最高でも100万でやるつもりの
従兄は100万円追加金額になり、
兄弟で折半にと
当日話し合いにしたら、
葬式あるあるな、
ケンカになっていた。
御愁傷様チーンだ。

で、
父的には単純に
直ぐに支払いを
したかっただけみたいだったが、
これが軽く失敗だった。

わたしがトイレに行ってる間に
事は起こっていたのだから。

もちろん
葬儀屋さん的に
ここで支払いとなるので、
以後の初七日段取りは
お世話なしと
判断されたのだ。

「本当に支払いで良いですか?
あの、吊り提灯はどうします?」

マジか?!
いつの間に清算だよ?!
初七日は誰が仕切る?!

この日何度目かに
叫びそうになるのを堪えて

「あの、
吊り提灯て、盆灯篭ですか?」

辛うじて頭を回転させた。

「あ、そちらでは無い習慣かも
しれませんが、別物ですよ。
本来は初七日後の時に伺うん
です。なんなら大型DIY店舗
さんでも夏に売ってますから。」

わかるだろうか?
この時点で、
自分達が知る段取りを
超えている。
島や田舎での盆事は謎だらけだ。

「いや、いいです!
お願いします!清算に
計上してくれて全然いいので!」

「じ、じゃあ。
では手数料も込みで、
 大きさは1万のと3万のと
ありますけど、、どうします」

「大きいので!!」

「はあ、なら形はどうします?
形のカタログがこちらにない
ので、宮形にしますか?船形?」

聞けば屋敷形とかあるとか。
もう想像さえできない。

「何ですか?! 
ふつうはどうします?」

「えーっと、女性ですし、
なら。宮方の花模様にしておき
ますか。送料かかりまして。
そのかわり戒名依頼で菩提寺
さんに送りますから。では。」

後半は、
謎の段取りを言い渡された気分。

この遣り取りの正体が
解るのは
叔母の初盆になるのだが、
万事このような
細かい忌事が続くのに、
この後の初七日法要に
葬儀屋がいない・・・

「ありゃぁ~、
葬儀屋さん おらんですこ。」

『おじゅっさん』ことお坊さんの
奥さんに、
呆れた声を出された。

初七日法要をするのに、
故人である叔母宅は
とても人を上げれない。

菩提寺でお願いをしたのは
良い判断だったが、
ようは場所と読経を上げる
『おじゅっさん』はいても、
初七日を仕切る人がいない。
初七日の
回し焼香の準備がないのだ。
寺にはあるだろうが、
炭起こしとかある。

結局
お経をあげてもらって、
お願いしていた白木位牌から
本位牌に魂移しをしてもらって、
それで終わる事にした。
焼香なし!!

「じゃあ~、
こちら~持っていってこ。」

親族が 
叔母の遺産について説明して
欲しいと
父に詰め寄る中、
『おじゅっさん』から、
わたしに渡されたのは
白木位牌が建てられた
クーラーBOXぐらいある
『木の家』と卒塔婆。

「ええ?」

これ、どーしろと?
白木位牌ってもういらないん
じゃないか?
寺で焚き上げするんでは?だ。
敢えて言うなら本位牌だろ?

「あの、本位牌では、、」

ここで
妹が喪服と一緒に持ってきた
大量の菓子折りを
二包みだしつつ質問だ。

「永代供養だぁ~、
寺で預かるよって。
これはぁ家で盆まで祭る
分な。初盆法要で焚き上げる
よって、
寺ん門に出しとってええで。」

『おじゅっさん』は
包みを手に、奥に引っ込んだ。

どでかい白紙袋を手に骨壷と、
卒塔婆を担ぐ。

父が「それ、何だ?」という
始末。
父よ、島民だったんだろう?
知らないのか・・

「遺産については家で。」

一言宣言して
とにかく
一旦叔母の家にと親族を促す。
人手があるうちに、
遺品整理だってしたいのだ。

そんな目論見も見事に
裏切られた。

島の冬は一段と斜陽が早い。

詰め込む様な集落の小路から
見えた薄暗い家を見て、

「「「遺産は事後報告して」」」

と叫ぶや親族は
そのままUターンで帰る始末。
父と妹の三人で
取り残された。

「暗くなる前に骨納めするか。」

父の一言でそのまま
山の中腹にある共同墓地に。
とでかい白紙袋と卒塔婆をまた
担ぐ。

それでも
着いた墓は、
集落から海まで見渡せる高台。
実はこの風景が
1番好きなのだ。

冬の風は吹きすさぶけれど、
潮風が胸を抜けると、
すっとする。
集落手前のこの山は
富士山みたいな形で、
叔母の二階から見ると
パワーが漲る。

そんな山風が、
冬でも心地良い。

見れば他の家の墓にも、
『木の家』がいくつか
墓に置かれている。

「ここに置くのもあるんだ。」

父が墓に卒塔婆を、
妹が紙卒塔婆を何枚も立てる。
わたしは、
『木の家』を備え付けた。

「これ、中に白位牌あるぞ。」

という父の言葉は無視。

なんていっても、
わたしだって見よう見まね。
本当なら葬儀屋さんに
手取り足取り聞くとこだ。

とにかく、
まだこれからやる事は
目白押し。

まずは骨納め。
本来なら
ここも僧侶を呼ぶところ。
でも、もうセルフ。

墓の石水入れをずらす。
そこから墓の下に骨壺を
入れるけれど、
そんな事をすれば壺だらけだ。
自然風化するように
骨をガーゼに包み直して、
滑らせた。
虫が出てくるから
たまったもんじゃないし、
墓地の穴は手を入れない。
よく、名刺入れとかある
墓もあるけど、
箸を使って素手では取らない。
穴には良くないものが
あると言われた。

ケガとかの防止もあるのだろう。

風に吹かれて
三人で読経。
本当に祖母に仕込まれて
良かったと思う瞬間だ。

漸く、
ケンカばかりの葬式と、
親族に詰め寄られる初七日を
終えて、
三人で墓から海を
静かに眺めれる。

「今日の海、綺麗やな。」

父が隣で島民みたく
言うのが聞こえた。

父はそのまま帰るんだろ?

わたしと妹は、
まだ後整理の為に島滞在。

突然足元から頭に竜巻のような
風が起こる。
山からの畏怖するパワーを
感じながら、
ホテルに電話した。


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