★.:* ◌𓐍𓈒 LAST シンデレラ 𓈒𓐍◌ *:.★~挙式前夜に運命の出逢い~
 この夏を逃せば手遅れになる。そう腹括ったのに、なぜ今更こんなにも揺らぎ出す?

 ……彼の揺れる瞳を見てると何かが壊れそうで怖い。

「凄い偶然……笑えますね」

「笑えない。……少しも」

 彼は、また泣きたいのを必死に我慢して微笑む私に、再び悲痛な眼差しを向けてきた。

 やめて……そんな目で見ないで!

「作り笑いでも幸せホルモン分泌されるそうですよ。御守りありがとうございます。……大切にします」


 私は、胸が痛むほど深い悲しみに染まる彼の漆黒の瞳から逃れる為、軽く会釈し踵を返した。

「待って!」

 2度目の片手バックハグは、なぜか胸の鼓動が強く弾かれ、甘さを潜めたことに戸惑わずにいられない。

 彼の胸から身を起こそうとすると、彼も即腕を緩めた。

「……これも何かの縁。一緒に独身最後の晩餐しよう。人間、腹満たせば幾分前向きになれる。好きな物、何でもご馳走するよ」

「……最後の晩餐。……人生の墓場前に浴びるほどお酒飲んでみたいです」

 ……まだこの人と一緒にいたい。墓場前くらい素直な想いを優先してもいいよね?

「若い娘が、人生の墓場って……。酒強い?」

 首を傾げると、苦笑いする彼につられ自然と私も笑みがこぼれた。

 ……彼のおかげで一瞬だけ明日を忘れられた。

「花嫁が、二日酔いって前代未聞だろ。……下行こうか」

 でも即みぞおちに鉛のような重苦しさが戻るが、この背中を押し出す彼の柔らかな笑みに包まれ、少しだけ軽くなったような気がした。


 麓の駐車場に降りると、高級車の代名詞として名高い車に乗せられた。その後、国道に向かう途中、無言でいた彼が突然口を開いた。

「君の名は?」

「……フフ、三葉(みつは)です。数字の三に葉っぱの葉」

「三葉ちゃん……!? ……なら俺の名は、(たき)

 数年前、大ヒットしたアニメ映画のヒロインの名を名乗ると、彼もすぐに気付き主人公の名を名乗った。

 二人で笑い合い、少し固い雰囲気だった車内が一気に和み出した。

「あの映画、最高だったな。アニメ史上最高傑作」

「ですよね! もう感動の嵐で5回借りて観ました」

「俺は劇場で8回!」

 途端にドヤ顔、そして目を細めた笑顔は少年のように無邪気で胸にキュン……甘い音色が流れた。

 長身に甘いルックスだけでも世の女性キュンキュンさせてるだろうに、エリートで大人と少年ぽさのバランスが絶妙なんてずるい。……こんな素敵な人の助手席にいるなんて夢みたい。

 でもすぐ現実に引き戻され悲しみが湧き上がるのを、作り笑顔でギュッと心の奥に押し込み儚き夢の時間に浸ろうとした。

 更に他愛のない話が続く中、ふと彼は黙り込んだ。

「……どんな人? 結婚相手」

「……えっと、母の担当医師で確か今年48歳」

彼は、絶句して沈黙。

 再度口を開き掛けるが、あからさまに視線をそらし"詮索お断り"を察したのか、再び口を閉じた。

 先生ごめん、断ったのに嘘に使って。瀧君も嘘付いてごめんなさい。
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