ママの手料理 Ⅲ
今、自分の兄妹がどこで何をしているかなんて知らないし知りたいとも思わない。


彼らは物心が着く前に何処かの養護園に引き取られて養子に出されたはずだから、こんな真っ黒な過去を知ってほしくない。


貧困生活からいきなり養護園生活へと代わった直後、俺は環境の変化に順応するのにとても苦労した。


服が破れたと言ったらすぐ新しいのに替えてくれ、お腹がすいたと言えば見た事もない美味しいお菓子を出してくれる。


今までとは天と地ほどもあるその違いに混乱した俺は、過去の自分がどれだけ惨めだったかに気付いて段々と荒れていった。


そうして、いつしかあの有名な不良トリオが完成したのだ。



(何で、こんなに住む世界が違うんだよ…)


ふと目線を下げると、表情を目まぐるしく変えながら会話を楽しんでいる紫苑が目に入った。


その隣に座っている航海は、先程の俺と同じようにぼんやりと周りの外国人の様子を観察していた。



彼女も他のメンバーも、それぞれが思い思いの幸せを手に入れている。


それは、怪盗mirageというグループに入った俺もそうだ。



けれど今、俺はまた過去の自分がどれ程惨めだったかを痛感している真っ最中で。
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