ママの手料理 Ⅲ
もし自分が小さな頃からこんな優雅な生活を送っていたら、どんなに幸せだっただろう。


両親と一緒に手を繋いで、生ゴミじゃなく美味しい料理を口にして。


虫も食べれるかも、と本気で考えたあの頃の俺と同い年くらいの子は、今美味しそうにケーキを食べている。


信じられない。



シャンデリアやら大理石やら、視界から入ってくる光と物が眩しくてうるさくて目がチカチカする。


自分がこんな所に居るなんて未だに恐れ多いし慣れないし、このホテルのオーナーに申し訳ないとすら思ってくる。


高級だとかブランドだとか、こんな俺には似合わない余計なものを見るのを避けたくて前髪を伸ばしているのに、それを無視するかのように周りの景色は容赦なく俺の目に飛び込み、嫌でもこの光景を脳に記憶させようとしてきて。


慣れない、こんな高貴な場所、慣れるわけない。



(………)


遂に、俺はクロワッサンをちぎる手を止めた。


周りではしゃいでいる紫苑達の声は、既に雑音にしか聞こえなくなっていた。



ああ、俺は何て惨めなんだろうか。


怪盗mirageに出会えたから良かったものの、そうじゃなければ俺は。







そうじゃなければ俺は、どうなっていた?






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