ママの手料理 Ⅲ
私がそっと本題に踏み込んだ、その瞬間。


あれ程毛虫のように動き回っていた大也の動きが、ピタリと止まった。



「……仁から聞いたの?まあ、あいつは何にも思ってなさそうだったしね…」


数秒後聞こえてきた彼の声は、口をシーツに押し付けているのかくぐもっていて。


「そうだね、仁さんはあんまりダメージ食らってなさそうだった。……大也は、大丈」


「大丈夫なわけ、ないじゃん」


私が横向きになって大也の方を見た時、彼は勢い良く顔を上げて言葉を遮った。


(あ、…)


その目には、今にも零れ落ちそうな程の涙が溜まっていた。


「養子縁組、解除するって言われたんだよ…?考えてみてよ、もし紫苑ちゃんの2つ目の家族がいきなり養子縁組やめるって言い出したらどうするよ、?」


はぁー、と大きく息を吐き出した彼は、そのままゆっくりとベッドに仰向けになって。


洗面所からは、微かにシャワーの流れ出る音が聞こえてくる。



そういえば私は、彼の状況を自分に置き換えて考える事をしていなかった。


私は運良く丸谷家に引き取られて養子となって生活が出来ていたけれど、もし養子縁組を解除すると言われたらどう思うだろう。


確かに、動揺して彼のような反応を取ってしまうかもしれない。
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