ママの手料理 Ⅲ
ベッドから降り、傍にあったティッシュを抜き取って大也に差し出すと、


「っ…こっち見ないで、涙脆いの恥ずかしいから…、!」


ティッシュだけ奪い取られ、こちらに背を向けながら鼻声でそう言われた。


「分かった、そっち見ない」


そう言いつつ、目線はしっかり大也の元に落としている私は、そっとその髪を良い子良い子と撫でる。


仁さんに貶されて大也も大嫌いで、けれど私は好きな、その真っ白な雪の髪を。


「ジェームズさんに複雑な気持ちを持ってるのは凄く分かるけど、…盗みには、全力出してくれるよね?」


私の声は掠れていて、それに気付いた彼は体勢を変えて私の顔を見つめてきた。


「…うん、」


その瞳には、一瞬の迷いもなく。


「当たり前じゃん、俺は盗みには全力をかけてるから」


私の目を覗き込んだ彼は、その真っ赤な目を三日月型に変えて笑った。


「それと、もちろん生きて帰る」


「…絶対だよ」


彼が盗みを全力で行い、そして元気に生きて帰って来れるように。


前のような悲しみは、10ヶ月も待ったあの日々は、決して繰り返して欲しくない。


私の思いが届いたのか、彼は私の頭に手を伸ばし、髪がくしゃくしゃになるまで撫でながら口を開いた。



「…大丈夫だから、俺を信じて」
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