ママの手料理 Ⅲ
「ほら。リストカットしたんだけど、傷は深かったくせに死にきれなくてね…」
彼がリストバンドで隠していた部分にあったのは、カッターか何かで勢い良く切ったような細長く赤い傷。
誰にも言っちゃ駄目だよ、と言って彼はすぐにリストバンドを付け直し、その上からそっと傷跡を撫でる。
「…あいつはお人好し過ぎるんだ。僕らは生きる世界がまるで違ってて、本当は関わるはずがなかったのにね」
仁さんは本気で死にたいと思ってリストカットをしたから、琥珀が軽く言う“死ね”をどうしても許せなかったのだろう。
3年間の月日を共にしてきて、私は今日初めて“仁さん”という存在に触れられた気がした。
「…琥珀が言ってた通り、僕は生まれてすぐ、へその緒がついたまま養護園に捨てられたんだ。残されたメモには性別と生年月日と名前しか書かれてなくて…だからもちろん、親が誰かも知らない」
1度話し始めたら、仁さんの口からは言葉が堰を切ったように溢れ出した。
きっと、仁さんのプライドが許さなかっただけで本当はずっと誰かに聞いて欲しかったのだろう。
「…高校に入った辺りから、たまに壱のせいで自分の記憶が抜け落ちてるのが分かって。でもあの頃は何も知らなかったから、自分は何かの病気なんだと思い込んでた」
「壱さん……その頃から居たんですね、」
彼がリストバンドで隠していた部分にあったのは、カッターか何かで勢い良く切ったような細長く赤い傷。
誰にも言っちゃ駄目だよ、と言って彼はすぐにリストバンドを付け直し、その上からそっと傷跡を撫でる。
「…あいつはお人好し過ぎるんだ。僕らは生きる世界がまるで違ってて、本当は関わるはずがなかったのにね」
仁さんは本気で死にたいと思ってリストカットをしたから、琥珀が軽く言う“死ね”をどうしても許せなかったのだろう。
3年間の月日を共にしてきて、私は今日初めて“仁さん”という存在に触れられた気がした。
「…琥珀が言ってた通り、僕は生まれてすぐ、へその緒がついたまま養護園に捨てられたんだ。残されたメモには性別と生年月日と名前しか書かれてなくて…だからもちろん、親が誰かも知らない」
1度話し始めたら、仁さんの口からは言葉が堰を切ったように溢れ出した。
きっと、仁さんのプライドが許さなかっただけで本当はずっと誰かに聞いて欲しかったのだろう。
「…高校に入った辺りから、たまに壱のせいで自分の記憶が抜け落ちてるのが分かって。でもあの頃は何も知らなかったから、自分は何かの病気なんだと思い込んでた」
「壱さん……その頃から居たんですね、」