ママの手料理 Ⅲ
ずっと完璧な所を私達に見せ続けてきた仁さんからしたら、泣いたり取り乱したりするのを誰かに見られる事が嫌で恥ずかしい事だと思っているのかもしれないけれど、それは違うんだよ。


私の返答を聞いた彼は、大きく息を吐き出して。


何かを言いたそうに下唇を噛み締めた後、彼は決心したのかゆっくりとその唇を開いた。


「あの…mirageを結成、したのは湊なんだけど、…僕は、この家族の中で1番最初にmirageに入ったんだ」


そして、ぽつりと呟いた。



「…逃げ出したんだ、養護園から。…死のうと思ってた時に、湊が助けてくれた」


「…え?」


仁さんのペースを乱さないように黙っていようと思ったのに、反射的に声が出てしまった。


(死のうと思った…!?)


こんなにナルシストで自分を良く見せる言動しかしなくて、容姿端麗で、人生の花道を歩いているようなこの人が?


私の驚きが伝わったのか、仁さんは俯きがちに笑みを浮かべると、自分の左手首に巻かれたリストバンドにそっと手を当てた。


その手は震えていて、それでも、彼はそのリストバンドを静かに外した。


(え……!?)


その動き全てがスローモーションに見えて、リストバンドの下にあるものを見た私はただ息を呑む事しか出来なかった。
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