没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「俺が買ってくる。全種類。オデットは紅茶を淹れて待っていてくれ」

「で、でも、殿下にそんな用事を――あっ、行っちゃった」

やっとオデットの喜ぶものがわかったとばかりに、ジェラールは張り切って店を飛びだしてしまった。

残されたオデットは呆気に取られてドアを見つめる。

(いいのかな。前世の言葉を使うなら、パシリにしてしまったわ……)

世界広しといえども、王太子の彼にパンを買いに走らせることができる女性はオデットしかいないだろう。

それはジェラールがオデットの気を引こうとしているからなのだが、恋愛ごとに鈍感なオデットは目を瞬かせただけだった。



十分後、紙袋を抱えて戻ったジェラールに、三角巾とエプロン姿のルネがついてきた。

昼時は忙しいはずなのにとオデットは首を傾げる。

三人で猫脚の丸テーブルを囲んで立ったら、ルネがジェラールの背を強めに叩いて笑った。

「オデットのためにパンを全種類買うって言うから止めてあげたよ。そんなに食べきれないでしょ。買ってあげるなら指輪にしなさいとも言っておいたから」

どうやらそのやり取りを伝えるために、わざわざついてきたようだ。

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