没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
夫人は両手で顔を覆って嗚咽を漏らし、芝生に膝をついた。

騙されたというのに一家に心を砕いてくれたルネの懐の深さに感極まっているようだ。

「お母しゃん、痛いの?」

もがくようにオデットの腕から下りたエミーが、母親に抱きついて心配する。

「違うわ。お母さんは優しくされてとっても嬉しいの」

「そっか。エミーも嬉しい。お母しゃんとお父しゃん、だいしゅき!」

立ち尽くしたように妻子を見つめるブライアンの目に、涙の膜が張る。

「ルネ、いや、ルネさん。本当に申し訳ございませんでした……」

片手で目元を覆ったブライアンの謝罪は、心からのもののよう。

オデットもつられて目頭を熱くしたら、ルネがクルリと背を向けた。

「さーて、帰るか。店番さぼってまた親に叱られる。一件落着で気持ちいいわー」

(ルネ?)

突き上げた右手を元気に振って庭から出ようとしているけれど、その背が悲しげでルネが泣いているような気がした。

オデットが慌てて駆け寄ろうとしたら、ジェラールに腕を掴まれ止められた。

「まだ一件落着ではない」

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