没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
なぜか小脇に抱えていた貴族的に豪華な上着に袖を通し、変装用の黒縁眼鏡を外したジェラールが厳しい声を発する。

「出てこい」

すると、どこかに隠れて待機していたのか、ふたりの王城騎士が庭に現れた。

屈強そうな騎士たちはジェラールを守るように両脇に立つ。

ジェラールの隣にいるオデットも必然的に騎士を従えている格好になり、驚いて視線を左右に往復させる。

(まさか、捕らえるの!?)

ブライアンは片足を引いて騎士たちを恐れ、夫人は座り込んだまま悲痛な顔でエミーを抱きしめる。

庭から出ようとしていたルネも目を見開いて足を止めた。

今のジェラールは気さくな街の男ではなく、厳しい支配者の顔をしていた。

「ブライアン・ホッジ。王城騎士になりすまし、女性複数人に結婚詐欺を働くとは許しがたい所業だ」

「王太子殿下、あのっ!」

ブライアンが捕縛されれば妻子が困ると焦るあまりに、オデットはジェラールの呼び方を間違えた。

それを聞いたブライアンは目を見開き、慌てて膝をついて頭を下げた。

「王太子殿下とは存じ上げず、ご無礼を働いてしまいました。どうかお許しください」

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