没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
オデットが涙を拭って微笑むと、ガレは感嘆の声を漏らしてふたりに深々と頭を下げた。



翌日のカルダタンのティータイムは、オデットとジェラールのふたりきりである。

ブルノはジュエリーの修理依頼が溜まっているからと紅茶を一杯飲んだらすぐに仕事部屋に戻り、ルネは焼き立てのアップルシナモンパイを届けにきた後ニヤニヤしてすぐに帰った。

『私、すっごく忙しくてのんきにお茶してられないのよ。あ、ロイが学校から帰ってきたら呼び止めてうちでおやつを食べさせとく。オデットはふたりの世界を楽しんで』

あからさまに気を利かせてくれて、オデットが赤面したのは言うまでもない。

客のいない店内に、修理の金槌の音が小さく聞こえる中、オデットは丸テーブルにジェラールと隣り合って座り、笑みを浮かべる。

「国王陛下のお心が救われて本当によかったです」

「そうだな」

昨夜、グスマン伯爵邸を出たふたりはその足で王城へ向かい、国王に遺書を渡した。

開封されていたものの、筆跡は間違いなく兄のものだと認めてくれて、読んだ後に国王はしばらく静かに涙を流していた。

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