没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
彼の前に立ち心配して顔色を窺えば、まだ温まっていない手で頬を挟まれた。

「大丈夫だよ。でも癒しは欲しい。この意味、わかるよね?」

いたずらめかした口調でそう言ったジェラールは、端整な顔を斜めに傾け近づけてくる。

皆が見ていると慌てたオデットがジェラールの胸を押すより先に、ロイが体当たりを食らわせてキスを阻止した。

ロイもつい先ほど学校から帰ってきたところだ。

「恋人だからって人前でイチャつくな。オデットが困っているだろ!」

相変わらず王太子に対して微塵の敬意も示さないロイだが、ジェラールは怒らずに感心している。

「へぇ。ついに俺とオデットの仲を認めたのか。『僕のオデット』と言われるかと思っていたんだが」

「仕方ないだろ。オデットがお前を好きだと言うんだから。幸せにしないと許さないからな」

「幸せは保証するが、子供の君に許してもらおうとは思わない」

「なんだと!?」

オデットはクスクスと笑って、ふたりの口喧嘩を温かく見守る。

(弟みたいに可愛いロイ。やっと姉離れかしら? 少しだけ寂しい気もするわね)

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