没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
小さな声で挨拶し、オドオドと顔だけ覗かせたのは、ロイと同じ年頃の少女で制服を着ている。

肩までの栗色の髪と緑色の瞳を持ち、オデットに少し似た雰囲気で可愛らしい。

「あっ!」

ロイが焦ったような声を出し、慌てて少女に駆け寄った。

どうやらロイの学校の友達のようだ。

「ロイくん、この前のお礼を渡そうと思ったの。でも学校ではみんながいるから、なかなか渡せなくて……」

「お礼なんかいらないよ」

異性の友人との会話をオデットたちに聞かれるのが恥ずかしいのか、ロイは迷惑顔をしている。

(そういう年頃よね)

フフと笑ったオデットはふたりに歩み寄り、優しく声をかける。

「こんにちは。ロイのお友達ね。そこは寒いわ。中に入って一緒にお茶を飲みましょう。お名前は?」

「リリアです」

「リリアさん、歓迎するわ」

「オデット!」

文句がありそうなロイを、オデットが姉のようにたしなめる。

「お友達には優しくしようね」

チッと舌打ちしたロイは面白くなさそうに椅子に座り、悲しげなリリアが持っている紙袋に視線を落とした。

「それをロイに渡しにきてくれたのね?」

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