没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「前世は異世界の宝石鑑定士か。ミステリアスな君の謎がひとつ解けた気分だ。もう俺に話していないことはない?」

美しい琥珀色の瞳に目の奥を覗き込まれ、オデットは頬を染めつつもバツが悪そうに打ち明ける。

「先月、殿下にお借りしたハンカチをまだ返していません。お返ししたくなくて……」

「ああ、そういえばそうだね。忘れていたよ。欲しいならあげるけど、女性らしいデザインのハンカチの方がいいだろ。帰りに買おう」

「あ、違うんです。返したくないというのは――」

そのシルクのハンカチは、オデットがうっかりティーポットの紅茶をこぼして手に軽い火傷をしてしまった時に、ジェラールが冷水に浸して手当てしてくれた時のものである。

医者に診せるほどではないのにかなり心配されて、ルネが『過保護』と笑っていた。

ハンカチは、いつでも返せるように洗ってアイロンをかけてある。

けれどもそれを見るとジェラールの愛情を感じられるので手放しがたく、『もう一日借りておこう』と思って今日に至る。

「ごめんなさい。明日はお返しします」

< 261 / 316 >

この作品をシェア

pagetop