没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「ブルノさん、ごめんなさい。とても素敵な真珠のネックレスだったので、つい……」

「また説得して持ち帰らせたのか」

コクリと頷いて首をすくめたオデットに、ブルノはやれやれと言いたげに頭をかいた。

カルダタンに勤めて一年ほどで、従業員はふたりだけ。

オデットの特殊能力を『素敵な才能だ』と褒めてくれたブルノでも、商売にならないのは困りもののようである。

しかしながら叱らずに、ハハと笑ってくれた。

「商売人としての才能はないが鑑定力は確かだ。オデットのおかげで助かっているよ。それくらいで怒ったりしないさ」

「ありがとうございます!」

小さな店内はノスタルジックな風合いだ。

横長のガラスのショーケースと木製棚、サイドテーブルが趣味よく配され、そこにジュエリーや銀食器、オルゴールや人形などの商品が陳列されている。

目がサファイアの木馬や文字盤にダイヤを埋め込んだ柱時計、クリスタルの女神像など大きな品物は、床に敷いたビロードの上に置かれていた。

通りに面した窓際には猫脚の丸テーブルと布張り椅子が四脚あって、そこに腰かけたブルノが首を回しながら新聞を広げた。

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