契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 そんな日々が一変したのは、父の会社の従業員がお金を持ち逃げしたことがきっかけだった。

 経営は一気に傾き会社は倒産。住んでいた家を売り、今は築五十年以上になる三Kのアパートで暮らしている。
信じていた部下に裏切られて父はすっかり人間不信となり、酒に溺れるようになってしまった。

 そんな父に代わって、母が朝から夜遅くまで働いて家計を支えてくれている。それなのに父は母に感謝するどころか、暴言を吐いて当たり散らしている。それが最近はエスカレートしていて気が気ではない。

「早く大人になりたい、な」

 進路を決める際に少しでも母の助けになりたくて、一度は就職する道を選んだ。だけど幼い頃から大好きな飛行機に乗って、世界中を飛び回りたいという私の夢を知っていた母に大反対された。

 母のためにも第一志望の語学系が多い国立大学に合格して、CAとして働くために知識を得ることだ。

 CAになるための最短ルートは専門学校だと知っているけど、進学にかかる負担を少しでも減らしたい。それに母から一度しか経験できない四年間の大学生生活を満喫してほしいとも言われている。だから国立大学一本に絞って受験するつもりだ。

「勉強に集中することが、お母さんのためでもあるんだ」

 そう自分に言い聞かせて勉強を再開させた。
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