契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

　時刻は二十一時過ぎ。そっと居間に続く襖を開けると、テレビを付けっぱなしにして父が酔いつぶれていた。
　熟睡していて起きそうにない姿にホッと胸を撫で下ろし、夕食の準備に取りかかる。

　余りもので簡単なおかずを作っていると、慌ただしく母が帰宅した。

「おかえり。……どうしたの？」

　鍵を閉めた母は顔面蒼白で、ただ事ではない様子。料理する手を止めて母に寄り添う。

「ごめんね、心配かけて」

　そう言って母は熟睡している父を一目見た後、声を潜めた。

「どうやらお父さん、知らないうちに新たな借金を作っていたようで、さっき借金取りに声をかけられたの。今日は挨拶で来たけど、今度来た時はしっかり貸したお金を返してもらうって」

「嘘、借金って本当に？」

　母は力なく首を縦に振った。

「私と凪咲がいない日中に出かけて、ギャンブルしていたみたいで……。利子がついて三百万だって言っていたわ」

「三百万……」

　信じられない、借金があるというのにさらに借金を作るなんて。それも母に働かせておいて、自分はギャンブル？

　優しくて真面目だった頃の姿を知っているからこそ、裏切られた父の気持ちを尊重して我慢してきた。でも、もう限界。