契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「お母さん、お父さんと離婚してふたりで家を出よう」

 そうだよ、もうこの方法しかない。昔の父に戻ってくれることを願っていたけれど、信じて待っていたらもっと母と私はつらい思いをする気がしてならない。

「ごめんね、凪咲。……お父さんと今は離婚することができないのよ」

「どうして? やっぱりまだお父さんのことが好きなの?」

 そりゃ私だって父のことを心から嫌いになることはできない。でも私たちはもう十分父が変わってくれることを信じて待った。

「もちろんそれもあるわ。一度は好きになって結婚してあなたまで授かったんだもの。だけど正直、このままお父さんと一緒にいても、凪咲を不幸にするだけだって思い始めている」

「だったら……っ!」

「それでも無理なの」

 私の声を遮って言うと、母は深いため息を漏らした。

「さっき、借金取りに私が連帯保証人になっていることを聞かされたわ。お父さんが勝手に書類に私の名前を使ってサインしちゃったみたい」

「そんな……」

「離婚してもお父さんが借金を返さない限り、ずっと私が返し続けないといけないの。だったらお父さんがまた昔のように戻ってくれることを信じて待とうと思う」

「お母さん……」

 その可能性は限りなくゼロに近いと思う。きっと母もそれをわかっているからこそ、今にも泣きそうな顔で言っているだよね?
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