春恋
「睦月さん、僕は高校の時から知ってたんです。あなたの事を」
カウンターから出て来たオーナーは私の座っている椅子を回転させて膝を付き私と目線合わせながら両手で私の手を優しく包みこむ。
「オヤジからはストーカー扱いされましたけどね」
クスッと笑い冗談ぽく話す彼を涙でグチャグチャになった顔の私も軽く笑う。
「最初は駅で綺麗な人だなーて思って見てたんです。見てるだけの憧れで。ただあの日の睦月さんは違った」
両手を包む手に力が入って私は視線を彼に向けて「疲れてた?」と呟いた。
「ぼろぼろに見えました。桜と一緒で散ってしまいそうで。でもつけ込むチャンスとも思った」
気まずそうな言い方をしながらも表情は穏やか。
「睦月さんの諦めの早さと鈍さには本当にまいりましたよ。結局ここまで気付かれないなんて」
きっと態度や言葉で示してくれてたんだとは思うけど他の人にも同じように接してるはずだと思い込んでた。
「ずっと思ってくれてたんですね」
また溢れ出した涙を彼は優しく拭いながら頷き私のおでこにリップ音をたてた。
「これからもずっと思い続けますよ。ラテアートも指導して貰わないと、ね?」
そう言って私を強く抱きしめた。
桜のアートはカップの中で散ってしまってるけど
外の桜は月の光で照らされて2人の恋愛を応援してるように見える。
あのキスの答えはきっと《私の事が好き》て事だったんだろう。
「答えの返事です」
私は彼にとびっきりのキスをプレゼントして2人で顔を見合せて微笑んだ。