春恋


親に勧められた一流大学に入り一流企業に就職した私は心身共に疲れてた。
一流企業とはいえ残業続きで入社3年にもなると後輩の指導にプロジェクトへの参加。
あの頃の私は今より数倍笑えるほど老けてたと思う。


「お姉さん、最終出ちゃったよ?」


電車を何本見送ったんだろう。
プラットフォームのベンチから見える桜を眺め過ぎて最終まで見送ってしまってた。


「あ、教えてくれてありがとう」


まだあどけなさの残るオーナーとの最初の出会い。



「綺麗ですね」


隣に座った彼はふと呟いて私に微笑みを浮かべた。
私は何も言えずただ舞い散る夜桜を見ながら彼に軽く微笑んで下を向いた。


「はい」


あどけない顔とは違う大きな手を差し出して「行こう」と発せられた言葉に私はその手を取ってしまった。


あれは一時の気の迷い。


2人で桜並木を歩き、自然と2人で迎えた初めての朝。
見ず知らずの男の子と初めてを?…と考える余裕もないくらい彼に頼りたかった。


「お姉さん。うちで働かない?」


ホテルのベッドで余韻に浸りつつ彼は私を抱きしめて優しく頭を撫でてくれる。


「働く?」聞き返して胸元にうずめていた顔を上げた。
月明かりに照らされた彼は微笑んで私に優しくキスを落とす。


(ただの学生かと思ってた…)


彼の気持ちが嬉しくて暖かくて「ありがとう」と一言だけ彼に告げるとギュッと抱きしめる力が強くなり私はそのまま何も言わず眠りについた。
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