ゆっくり、話そうか。
また男前って言ってる。
もうセットなのかな。

日下部=男前図式は嬉しいような恥ずかしいような。
やよいが毎回言うほどのものでもないと思っている日下部にとっては、なかなか対応が難しいところ。

ていうか、殺られるってなに。
無いよ。

自分ではどう頑張ってもこんな考えには至らなくて、ここまで突拍子もないことを想像できるやよいの頭は本当は賢いのではないかと思えた。

「そうや、このジュースで冷やそ」

自販機で買ってきたジュースを拾ったやよいが、さっき日下部が手で押さえていた辺りに乗せた。

うん、ぬるい。
そして痛い。

本当は賢いのくだりは日下部によって即座に撤回された。

自販機から出されて結構な時間が経っているペットボトルは、いくらこの場所が涼しいからといってその温度を保てるはずもなく。
夏の常温と同じく、温くなっていた。
押し当てられたペットボトルは傷に障るということではなく、力加減が絶妙に攻撃的で刺激が強いという痛い。

「保健室行ったほうがええんちゃう?」

「よくない」

「頑固やな自分。冷やせるものくれるで?」

ペットボトルを当てたまま、少し顔を傾けたやよいと視線がぶつかる。
そのまましばらくやよいを見つめると、ペットボトルの頭をつかんだ日下部が額から離した。

「なんでもしてくれるの?」

「できることやったら」

「じゃあまずそこから降りようか」

日下部に“そこ”といわれて、指で指し示された方へ目をやったやよいは、自分が今どんなとんでもないことをしていたのか理解した。

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