一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
 先程までと変わらない態度で会話をする。けれど妙にそわそわとしてしまい、落ち着かない。

「お茶でもして帰る?」

 そう健斗に聞かれ、美晴は内心焦った。今のこの精神状態で二人で向き合ったら、目を合わすことも出来ずにきっとギクシャクしてしまうだろう。けれど、ここで解散して健斗と離れるのは、寂しくて嫌だった。とっさに買い物を思い付き、デパートへ行くことを提案する。

 デパ地下では、人混みを理由にいったん健斗と別行動を取ることにした。一人で買い物をして、少し気持ちを落ち着かせたかった。お目当ての店に行き、菓子を買う順番を待ちながら、美晴は先程までの出来事を振り返る。

 なぜ理恵に二人の関係を客観的に言われただけで、こんなにも感情が揺れてしまったのか。健斗とはそれまでも毎週末に会っていたし、タイミングが合えば水曜日のお昼にも顔を合わせていた。好きだとも言われたし、勢いでセックスだってした。

「セッ……!」

 思わず口からその単語が漏れそうになって、慌ててうつむく。あの夜からもう一ヶ月以上経過していた。美晴の中ではもうすっかり過ぎたことになっていたはずなのに、一気に思い出す。あのときの健斗の真剣な眼差し、唇の柔らかさ、こちらの官能を引き出す指。そしてあの……、

 なんで? なんで思い出す? なんで動揺する? なんで?

「浅川さん、すごい偶然!」

 混乱が治まらないまま買い物を済ませ、それでも健斗の元に戻ろうとしたところ、背後から呼びかける女性の声がして振り返った。





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